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社員の能力を引き出せない……中小企業の経営者が見落としている3つの問題点

著者:山﨑 明

人手が不足している中小企業の経営者は、目の前の課題を精神論で突破しようとする風潮がありますが、それだけでは社員が疲弊してしまいます。そこで本コラムでは経営者が見落としている問題点を3つに分け、ご紹介します。

問題点①分業の仕組み 役割分担と責任範囲があいまいになっている

慢性的に人手が足りない中小企業では、経営者をはじめ、多くの社員が夜遅くまで仕事をしている光景をよく見かけます。忙しいのはけっこうなことです。そうした毎日の積み重ねの先に、会社としての次のステップが待っているのですから、少しは無理をするのも当然でしょう。

しかし、首をかしげたくなる会社もあります。毎日、朝早くから夜遅くまで仕事をしているのに、利益はあまり伸びていない。しかも経営者が率先して「仕事というのは、最後は気合と根性だ」と意気込むものの、社員はどんどん疲弊していく……。こんな〝ガンバリズム〟に支配された会社は、潰れる可能性が高いといっていいでしょう。

確かに気合と根性で頑張るというメンタリティがなければ、厳しい競争社会を勝ち抜くことはできないのも事実。特に、人も資金も限られている創業期のように、死に物狂いでがんばらなければならない時期もあります。むしろ私が問題にしたいのは、創業期を過ぎてもなお、すべてにおいてガンバリズムで押し通そうとする精神風土です。頑張ればすべてうまくいくほど、ビジネスは単純なものではないからです。

なぜ、ガンバリズムを信奉してしまうのか。ここでもやはり、「経営の原理原則」が関わってきます。原理原則が分かっていないため精神的な問題にすり替え、「頑張ればすべてうまくいく」「うまくいかないのは気合が足りないせいだ」となるのです。

経営者が一人で仕事を抱え込むのは分業の仕組みができていないから

この場合の「経営の原理原則」は、組織についての基本的なとらえ方です。

起業したばかりで、会社といっても実質的には経営者が一人でやっている場合、すべてを背負って頑張るしかありません。しかし、社員が一人でも増えれば、そこから先は組織として考える必要が出てきます。では、組織とはなんでしょうか。普段はあまり考えないと思いますが、組織は「トップのビジョンを実現するための2人以上の分業の仕組み」と言い換えることができます。

分業というのは、「組織を構成する人それぞれの役割を明確にすること」です。個人ごとに職務分担を決めて、独力で完遂できる状態をいいます。経営者は一人で全部できるかもしれませんが、代わりにできる人を配置していくことが組織づくりです。

伸びていく会社の経営者は、社員が1人、2人の状態からでも、この分業の仕組みをつくっています。逆に、伸び悩む会社には分業の仕組みがなく、経営者と、ある特定の人にだけ仕事が集中しているケースが多々見られます。気合と根性で頑張ってみても、組織としては効率も生産性も悪く、思うように業績は伸びていかないのです。

経営者が頑張るのは大いにけっこうです。しかし、頑張りを支えるのが気合と根性というのでは、会社の未来はないといっていいでしょう。精神論によるガンバリズムは、経営者自身を疲弊させ、やがては社員にもその疲弊を押しつけてしまうことになります。

そして、根本的な誤りとなるのは、無謀な精神論が、「経営の原理原則」として取り組むべき「仕組みづくり」から目をそらせてしまうことです。その一つが「分業の仕組み」。分業の仕組みなくして、組織はあり得ません。

分業の仕組みのない組織があるとしたら、それは潰れる会社にほかなりません。

問題点②ワンマン経営 経営判断の誤りを訂正できない

経営判断は「トップダウン」にすべきか「ボトムアップ」にすべきか、という議論がありますが、中小企業の経営者の多くは「トップダウン型」ではないかと思います。経営者の判断と決断で会社を運営する。これは一つの理想型ですし、私もトップダウンを支持します。

問題はその質です。トップダウンといってもいろいろで、まわりの言うことには耳を貸さず、自分の体験と勘だけを頼りに判断するのは、いわゆる〝ワンマン社長〟で、質のいいトップダウンとはいえません。

順風満帆のときはいいのですが、社長の読みが外れたとき、または社長が病気等で仕事を離れたとき、そうした組織では柔軟に対応することができないからです。

では、質のいいトップダウンとはどういうものでしょうか。

結論から先にいえば、社長の判断で決めるべき重要事項はトップダウンで速やかに社内に浸透させ、無駄な会議は極力少なくすることです。よく、自分の「独断」をオブラートに包むために、社内の合意形成をはかる会議を社長が主催するケースがありますが、そうした会議はどう考えても時間の無駄です。

社長が重要事項だからと考えたとしても、多くの中小企業の場合、社員のなかにその重要事項を、責任を持って討議できる〝会議参加資格者〟はどれほど存在しているでしょうか。社長と同じ目線で議論できるメンバーは、ほとんどいないというのが実情ではないでしょうか。極端な言い方ですが、プロ野球の監督が小学生を集めて、甲子園でどうやったら優勝できるかを話し合うようなものです。

また、現場の意見の吸い上げという名目で、若手社員を交えた会議を開くような場合でも、往々にして、社長の「説教の場」になることがあります。「忌憚なく意見を言いなさい」と言いながら、出席している若手社員は萎縮して、当たり障りのないことを口にするだけです。これも、時間の無駄遣い以外の何物でもありません。

本来、トップダウンで決めるべきことを、中途半端にボトムアップを装うのは、少なくとも中小企業の場合は、組織としての機動力を失わせることになりかねません。社長は、「経営の原理原則」に基づいた、自分の判断と決断を優先させるべきです。

朝令暮改、大いにけっこう。現代は朝令朝改さえもあり

トップダウンにつながる話ですが、一度下した経営判断を取り下げ、方向転換することを「判断ミス」だと思っているのではないでしょうか。昔から「武士に二言はない」といわれるように、経営者は一度口にしたことを軽々しく訂正すべきではない、と考える人もいるようですが、これは大きな間違いです。

パソコンのマウスをクリックするだけで、情報が世界に伝わっていく社会なのです。昨日の常識が今日は非常識になっているかもしれないし、朝の時点ではトレンドといわれた情報が、午後には古臭いものとして扱われているかもしれません。つまり「潮目が変わった」と思ったらただちに修正して、情報を発信し直す必要があります。

「武士に二言はない」は封建社会の価値観であって、現代社会の経営者には「二言も三言 もある」でいいのです。たとえ朝礼で「こうしよう」と発言しても、必要を感じたら即座に軌道修正してもかまわないのです。「朝令暮改」は大いにけっこうで、場合によっては「朝令朝改」もありだと思います。

もちろん、なんとなく不安、自信がないというあいまいな理由で、発言をころころ変えるのはNGですが、十分な情報収集と状況判断に基づくものであれば、トップダウンで、軌道修正をどんどん加えていくべきです。

会社を潰してしまいかねない経営者というのは、リーダーとしてブレてはいけない軸と、悪しき墨守を混同しがちです。墨守とは、古い習慣や自説をかたくなに守り通そうとすることですが、その墨守の背景に往々にしてあるのは虚勢です。あるいは、質実の伴わない権威志向といっていいかもしれません。

リーダーがけっしてブレてはいけないのは、先にも触れたビジョンです。経営者としての原理原則であり、理念です。そこは一線も譲ってはなりません。そのビジョンさえしっかりしていれば、日々の業務の方針や指示が〝朝令朝改〟になろうが、いっこうにかまわないのです。なぜなら、ビジネス環境は常に変化し、人間の思考も進化していくものだからです。環境に合わせて思考を深めていけば、新たな気づきがあるのは当然です。

それに対して、会社を潰しかねない社長は、自分の沽券に関わるとばかりに、言ったことを頑固に貫こうとする。しかし、その貫こうとしているのは、自分が何と言ったかどうかだけ。言葉のうわべの整合性がとれているかどうかが気になっているのです。

ではなぜ、気になるのでしょうか。そこで自分の力量が判断されると思っているからです。これは、潰れる会社の社長の大きな特徴といっていいものです。 経営は、そんな片言隻語に左右されるものではありません。もっと、大所高所からの判断と決断が求められます。会社を潰す社長は、そこを忘れているのです。

問題点③コミュニケーション不足 経営者の意思を言語化できていない

中小企業の経営者は、例外なく忙しい毎日を送っています。営業系の会社では、社長自 ら第一線で取引先回りをしていることも多く、会社に帰ってきても仕事が立てこんでいて、電話してもなかなかつかまらないこともよくあります。

外回りが多く外出がちなのはいいとしても、社員が社長の居所さえ分からないという会社は感心しません。私の経験則からいえば、こういう会社は遅かれ早かれ必ず伸び悩むことになります。はっきりいえば、潰れる可能性だってあります。

理由の一つは、言うまでもなく、取引先の心証が悪くなることです。今は取引関係にあるとしても、その心証の悪さが信頼関係に悪影響を及ぼすことは想像に難くありません。その連鎖が続けば当然、会社の経営も危うくなります。

もっと、本質的な理由もあります。組織の「ゆるみ」が生じることです。会社全体の雰囲気に締まりがないというか、のんびりした空気が漂っています。そののんびりムードが、組織の〝タガがゆるむ〟原因にもなります。扇子でいえば、要の部分にあたるのが経営者で、「肝心要」の要がなければ扇子は用をなしません。

本人は「会社のために忙しく働いている」と思っているのでしょうが、こういう会社は、「経営の原理原則」の一つである「分業の仕組み」ができていないため、仕事の多くが社長に属人化してしまい、社長が必要以上に忙しくなってしまうのです。しかも、社員が、「社長の居所も分からない」となってしまっては、はっきりいって、組織の体をなしていないことになります。

繰り返しますが、社長は、忙しくて外出がちでもいいのです。大切なのは、その「組織 の要」がいなくても、確実に仕事がまわっていく「分業の仕組み」をつくっておくことです。それと同時に、社長を含め、社内にいる人間が「いつ、どこで、何をしているのか」それぞれの行動を把握しておける仕組みづくりも必要です。

ちゃんとした会社なら、グループウェアを導入するなどして、経営者を含めてすべての従業員が外出しているか在席しているか、外出している場合は帰社の予定は何時かを社内全体で共有できるようにします。コストはかかりますが、これも取引先へのサービスの一環と考えれば、けっして高いものではありません。人数が少なければ、グループウェアなど導入しなくても、アナログな方法でも管理はできます。

仕組みづくりとは、見方を変えれば、仕事を進めるうえでのルールづくりです。ルールなくして、組織は成り立ちません。それは、社員が互いに働きやすくなるためのルールであり、そして儲かるためのルールでもあるのです。

経営者の思いは言語化・ルール化しなければ絶対に伝わらない

ルール化という観点でいうと、就業規則の問題があります。

小規模事業者の場合、就業規則をつくっていないという会社もないではありませんが、 従業員が10人以上の会社なら、就業規則を労働基準監督署に届け出なければなりません。 それは法律で定められたルールです。

ですから、普通の中小企業なら就業規則はあって当たり前。問題は、その就業規則にどれだけ「経営者の意思」が込められているかです。

就業規則には、労働時間、賃金、退職金、服務規律、懲戒・解雇事由などなど、さまざまな内容が盛り込まれますが、厚生労働省が示しているひな型を使って、「これがわが社の就業規則です」とすませてしまうこともできます。しかし、経営者がこの会社をどのようにしたいのか、「経営の原理原則」をどう浸透させたいのか、その「意思」を反映させたものでなければ、役所に対して体裁をとりつくろうだけのペーパーに過ぎません。

例えば、定年については、「従業員の定年は設けない」と就業規則に規定するとします。その場合、ただし書きとしてこう付け加えることもできます。

「勉強しなくなったとき、新しいことに挑戦しなくなったとき、失敗を隠すようになったときは自ら定年と考え、自主的に退職することとする」

これは私の会社の就業規則なのですが、税理士など専門資格を持っている社員だけでなく一般の事務スタッフにも適用される規定です。そのほか、服務規律には、服装・身だしなみから挨拶、言葉遣いに至るまで、何十項目にわたって規定しています。それらが、一緒に仕事をしていくスタッフに求める私の「意思」だからです。

こういった経営者の意思を込めた就業規則は、先に触れたマニュアルと同じ意味を持っています。つまり、いくら自分が伝えたいと思っていても、明確に言語化しなければ伝わらないのです。このルール化ができなければ、いくら社長が「お前たちのために忙しく働いているんだ」と思っていても、それは絶対に伝わらないのです。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:儲かる社長 潰れる社長 著者:山﨑 明

1950年生まれ。東北大学工学部卒業後、造船会社勤務。造船不況による希望退職に応じ、税理士を志す。税理士事務所勤務を経て、1984年山﨑明税理士事務所開業。2004年税理事法人総合経営サービス設立。税理士のほか、中小企業診断士や、CFP(サーティファイドファイナンシャルプランナー)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任者などの有資格者を多数擁し、税務・財務だけでなく、経営全般のサービスをワンストップで提供する。
また、井崎富貴氏をチーフコンサルタントとする経営セミナー「経営革真塾」「総経元気塾」を主宰し、取引先関係者など多くの経営者の経営改革を支援している。
モットーは、「お客様のために法律に反すること以外は何でもやる」こと。

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