中小企業経営者の頭を悩ませる3つの人材問題

著者:神吉 武司

2019.08.20

大手企業のように大規模な採用活動ができない中小企業。そんな現状を三つの問題に分けて紹介しています。また、コラム後半では中小企業が人材問題から脱却するために必要な「心掛け」についても紹介しています。

目次

人材問題①難航する採用 採用しようにも優秀な人材が来ない

まず、一つ目に「中小企業の採用問題」について紹介します。 現在の日本は少子高齢化によって労働人口が減少していることに加え、空前の売り手市場が続く近年、即戦力となる優秀な人材を獲得することは困難です。

厚生労働省の推計によると、働き手となる生産年齢人口(15~64歳)は2015年の7,728万人から2065年に4,529万人にまで落ち込むとされています。1年刻みで見ると毎年約64万人ずつ減っていく計算ですから、決して少ない数ではありません。

一方、昨今の景気回復で有効求人倍率は1.6倍(厚生労働省、2018年6月発表)を記録。企業が人手不足と感じる指数は大企業でマイナス23ポイント、中小企業でマイナス37ポイント(マイナス幅が大きいほど人手不足と感じる企業が多いことを示す)となり、特に大企業のマイナス幅は26年ぶりの水準となりました(日銀短観、2018年10月発表)。

一方の求職者にとっては空前の売り手市場です。大手志向が根強く残る日本では、ブランド力があり、待遇も良い大企業への就職を希望する人が多く見られます。さらに、大企業は優秀な人材の採用に力を入れており、優秀な学生ほど大企業のほうへ流れていきがちです。一方で、ブランド力も資金力もなく、中小企業は人材募集に十分な資金を投下できず、優秀な学生の獲得に苦慮しています。

このように、中小企業ほど大企業以上に人手が集まらず、人材問題を理由とした倒産が現実味を帯びてしまうのです。

人材問題② 高い離職率 仕事や会社に対する社員の意識が低く定着しない

次に二つ目の「定着させられない」問題です。 人材の補強が進まないなかで新規案件を請けた場合、既存社員に新たな仕事を割り振る しかありません。

その際、増加した仕事量に見合った条件を社員に提示し、働く環境への配慮も行っていればよいのですが、長時間労働を強いる一方で残業代の支払いを怠っている会社もあると聞きます。 そうなると社員は仕事に嫌気が差してきて、会社への忠誠心も次第に薄れていくでしょう。その結果、ただでさえ人員が不足しているにもかかわらず、さらに離職まで相次いでしまうのです。

中小企業庁の発表(2016年度)によると、大企業から中小企業に転職する人に比べて、中小企業から大企業に転職する人が大きく増加していることが分かりました。 2015年の転職の動向としては、大企業から中小企業への転職者数が50万人であるのに対して、中小企業から大企業への転職者数はほぼ倍の98万人となっています。中小企業はただでさえ採用が難しいだけでなく、貴重な人材を大企業に吸い上げられているのです。

大手への転職理由を見てみると、従業員規模が1~29人の会社では「収入が少ない」(20.5%)、30~99人の会社では「労働条件が悪い」(17.7%)となっていました。 大企業と中小企業の正社員賃金はここ20年間、格差が是正されていません(中小企業の正社員賃金は27.5万~29.8万円、大企業は33.8万~38.4万円で推移)。この賃金格差が、人材が大手に流れ込んでいる一つの要因になっていると考えられます。

同時に労働条件の悪さが上位に挙がっていることからも、過酷な労働環境が中小企業で 働く人の負担を強めている状況が推測できます。 さらに調査結果では、「収入が少ない」「会社の将来が不安」「会社の都合」「職場の人間関係」という項目については、従業員規模が大きい会社ほど転職理由になる割合が低下していることが分かりました。

つまり従業員規模が小さい会社を辞める人ほど、収入面や労働条件に加え、将来性や人間関係なども考慮しているということです。 先行きが不透明なこの時代に会社が倒産してしまえば、従業員は路頭に迷うことになり ます。大手以上に外部環境の変化に翻弄されやすい中小企業で働く人たちが、自社の将来性を気にするのは当然です。

人材問題③人材が育たない 新人を教育するための人的リソースが足りない

このように人材が定着しない企業は人手不足に加え、三つ目の「育てられない」問題も抱えています。人が辞めてばかりでは技術やノウハウが社内に蓄積されないばかりか、人を教育する人材も不足してしまうからです。

現在、高度経済成長期に創業した多くの中小企業では世代交代の時期を迎えています。 創業者から二代目、二代目から三代目への事業承継や古参社員の退職が迫るなか、創業から培われてきた理念や風土などをいかに伝えていくかは大きな課題といえるでしょう。大企業は教育制度が充実し、中長期目線で人材を育成していきます。教育専門の部署や人材を配置する資金的な余裕もあるでしょう。反対に少数精鋭の中小企業では誰もがプレイングマネジャーにならざるを得ず、人材育成どころではありません。

結局、頻繁に人が辞める会社は人が育たない会社でもあるのです。そうした不安定な会社で働こうと思う人は残念ながら多くはありませんから、中小企業はさらに人材が足りなくなるという悪循環に陥ってしまいます。

貴重な人材が辞めてしまうと新規案件の受注は見送らざるを得なくなり、仕事が減れば売上も減少し、借入返済や支払いなどの原資が不足して資金繰りが悪化していきます。受注を断ったことで大口顧客との契約が打ち切りになれば、売上のさらなる低下は避けられません。

それでも人材の問題が解決できない場合、最悪のケースでは業績回復のめどが立たないことで返済や支払いが不能となり、事実上、事業継続が難しくなってしまうのです。景気回復で仕事は増えているにもかかわらず、人手が足りずに事業撤退を余儀なくされる可能性は決してゼロではありません。

採用活動を行うとき、できれば「優秀な人に来てほしい」というのが経営者の共通の思 いでしょう。しかし厳しいことをいうようですが、理想どおりの人材は中小企業にはなかなか来てくれません。

〝悪い会社〟には良い人材は集まらない

中小企業が人材難に陥る理由を私なりに極論すれば、「悪い会社には良い人材が集まらない」という一言に尽きます。 では悪い会社とはどのような会社なのか。それは「社員を軽視している会社」です。

例えばお菓子の卸会社の倉庫には、チョコレートを保管するクーラー室が完備されているのが一般的です。チョコレートは室温が高くなると溶けてしまうので当然の対策ではあるものの、問題はクーラー室を含む倉庫全体の環境です。大抵のお菓子は常温保存が可能だからでしょうか、倉庫全体の空調管理は行っていない卸会社が少なくないのです。ちょっと想像してもらえると分かりますが、夏場の倉庫は室温がかなり上昇します。

クーラーがない場合、倉庫管理の人たちは扇風機を回しても熱風が吹きつけるような劣悪な環境下で、汗をダラダラかきながら働いているのです。倉庫での仕事は商品の受け取りや仕分け、運搬作業など肉体労働的な面もありますから、暑さが余計に体にこたえます。そんな環境で社員を働かせることが私には信じられません。そうした会社の経営者は、人よりもチョコレートのほうが大事だとでも思っているのでしょうか。

もちろん商品を粗末に扱ってもいいという意味ではありませんが、経営者が一番に考えるべきは当然「人」であるべきです。社員が商品の出入荷の管理をきっちりやってくれるからこそ、会社は利潤を追い求めることができるのです。経営者はこの当たり前の事実を忘れてはなりません。

倉庫現場の環境改善でいえば、働く人を最優先に考えて倉庫全体の空調管理を徹底するのが大前提です。そのうえで、人がいない夜中も含めた時間体制で空調管理を行えば、人に優しく、商品にも優しい倉庫づくりが可能です。

経営は一事が万事といわれます。代表者が社員を軽視していれば、その姿勢があらゆる場面で現れるものです。 特に現場の距離が近い中小企業の場合、社員は経営者の一挙手一投足を本当によく観察しています。小さな会社の命運は経営者にかかっているからこそ、経営者としての資質や能力が備わっているかどうか、社員は見極めようとしているのです。

社員から「うちの社長は自分たちを軽視している」と見られた場合、次第に経営者に対する社員の気持ちは離れていきます。そうした社内の評判は外部にも聞こえていくものですから、募集を出してもさらに応募が集まらない会社になっていくでしょう。

社員の姿は経営者の鏡ともいわれるように、社員の働く姿勢や能力は良い意味でも悪い意味でも経営者次第です。中小企業の場合、人材が定着しない根本原因は自らにある── この心掛けを持つことが大切です。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:社員の能力を劇的に伸ばす すごいご褒美 著者:神吉 武司

株式会社吉寿屋相談役
1941年徳島県生まれ。1964年に大阪にて菓子卸・流通業の商社を創業。その後、小売に進出し「お菓子のデパートよしや」を展開。手頃な値段で気軽にお菓子を買える店として人気を集める。早朝出勤やトイレ掃除、倹約の徹底などユニークな方針を打ち出し、自ら率先して実行。社員教育や福利厚生の充実にも注力し、1998年には業界ナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した。2018年現在は関西地区を始め、愛知県、岡山県、福井県、岐阜県にも販路を拡大し、直営店38店舗、FC契約60店舗の約100店舗で年間1億5000万個の菓子を販売。年間売上は120億円に上る。1998年には代表取締役の職を退き、会長に就任。2016年より相談役となる。

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