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企業間取引(BtoB)に「個人消費」の理論を取り入れると必ず失敗する

著者:中田 義将

BtoB、BtoCのマーケティングの違い

BtoBのWebマーケティングについて解説する前に、BtoC とBtoBにおけるマーケティングの違いについて説明しておきましょう。

BtoCとBtoBにはいろいろな違いがありますが、最も大きな点は「意思決定までのプロセス」にあります。BtoCにおいては、その製品やサービスを欲しいと思う人と、購入を決定する人とはたいていの場合、同一人物です。ですから、お客さまに製品やサービスを紹介するにあたってはその当人だけに「欲しい!」と思わせれば十分です。

多くのBtoCマーケティングは、この特性に基づいて、お客さまの「欲しい!」という感情をあおるようなつくりにしています。例えば、大きな文字と見栄えの良いイメージ写真、そして派手な色彩で「1000個限定! なくなり次第終了」「本日限定75%オフ!」など消費者の購買意欲をあおるのが、典型的なBtoC販売の手法です。

それに対して、BtoBでは、製品やサービスの情報を集める人と、購買の意思決定をする人とは往々にして一致しません。個人事業主に近いような法人であれば別ですが、ほとんどの法人企業では、何らかの製品やサービスを購入するにあたって、複数の人の稟議が不可欠です。つまり、どんなに見込み客の感情をあおったところで、それが受注に直結するわけではないのです。

BtoBでは必ず複数の人間が決裁に関わる

BtoCとBtoBのこのような違いは、お客さまが購入時に参考にする情報の違いとなっても表れています。リーディング・ソリューションの調査(図表参照)によると、BtoCのWebサイトの顧客は、購入にあたってテレビやラジオといった娯楽性の高いマスメディアの情報に、より大きく影響されています。

BtoCにおいては、有名芸能人をイメージキャラクターに使用したり、人気アーティストの曲をイメージソングに起用したりして、テレビやラジオでCMを放送することが、お客さまの感情に訴えかけて購買意欲を高める有効な手段となっているのです。

それに対して、BtoBでは、マスメディアの影響力は弱く、企業のWebサイトやカタログ・パンフレットといった比較的、冷静な情報源が購入にあたって参考にされていることが多いようです。BtoBにおいては、ある製品の購入を検討し始めてから購入を決定するまでの時間が長く、複数の人間が関わるために、感情に訴えたマーケティングにはあまり効果がないのです。

売り文句のないBtoB企業の商材は売れない

衝動買いが多いBtoCにおいては、露出を高めることが重要な戦略になります。お客さまにニーズがなくても、商品をPRすることで購買意欲を起こさせることができるからです。ですから、BtoCではマスメディアを中心に広告宣伝を広く行い、衝動買いを誘うような戦略が有効になります。しかし、BtoBにおいては、その場でどんなに「欲しい!」という衝動を喚起しても、決してすぐには購入してもらえません。時間をかけて冷静にメリットとデメリットを検討されるため、衝動買いを起こさせるようなマーケティングはむしろ逆効果になってしまいます。

では、BtoBにおいては、どのようなマーケティングが効果を持つのでしょうか。  一つには、上司に対して必要性や競合と比較しての優位性を論理的に説明できる情報の提供が挙げられます。

例えば、とある会社でITシステムを導入することになったとしましょう。購入の選定にあたる担当者が実際に稟議書を通すには、次のような疑問に答える必要があります。

•そのITシステムの導入によって、どのようなメリットが得られるのか。

•そのメリットは導入費用と比較して遜色のないものなのか。

•競合企業の製品と比較して、その製品を選んだ理由は何か。

•なぜ来期ではなく、今期に導入する必要があるのか。

•導入によって考えられるデメリットとその対策はあるのか。

BtoCにおいては、何かを購入するにあたって合理的な説明を求められることはありません。新しいコートを買ってきた妻が、家族から「なぜそのコートが今、必要だと思ったの?」「そのコートのメリットはなに?」「もっと安いのがあったんじゃないの?」などと夫から質問攻めにあうことはありませんし、たとえあったとしても「欲しかったから」と言ってしまえばそれでおしまいです。

ただし、車や住宅のような金額の大きな買い物になると、家庭内でそれなりに話し合いが持たれるかもしれません。その場合は、BtoCといえどもBtoBに似通った購入の検討が行われますが、BtoBの場合ほど費用対効果が数字で厳しく求められることはないでしょう。

以上の例から分かるように、BtoCとBtoBではお客さまの購入までの意思決定と行動に大きな違いがみられます。その違いを考慮に入れずにWebサイトを作ったところで、マーケティングがうまくいくはずはありません。

イタリアのマーケティング・コンサルタント、パチェンティ・ジュリオ・チェザレはその著書の中で次のように違いを説明しています。

「•BtoCマーケティングでは、一般消費者の嗜好をはじめとする感情的な購買動機に重点が置かれる。 •BtoBマーケティングでは、顧客企業の意思決定に関連する理性や、商品・サービスの合理性(機能性)に重点が置かれる。」(『B2Bマーケティング―顧客価値の向上に貢献する7つのプロセス』ダイヤモンド社)

そのため、BtoC企業であるシューズメーカーは、「寒さから足を守るためではなく、お客さまを決まりきった平凡な日常から解放するための靴だ」と売り込み、BtoB企業の紡績機械メーカーは、「1時間に100キログラムというスピードで製糸できる」うえに「20年間は故障しない」などの売り文句を展開するわけです。

企業は合理的な判断の上で購買を決める

では、BtoBの場合の、見込客の購買行動パターンをさらに詳しく分析してみましょう。 見込客は企業といえども、最初に何らかの製品やサービスを購入したいと思うのは、その企業に属する個人になります。しかし、BtoCとは異なり、感情に基づく個人的な欲求が購入につながることはありません。BtoBの場合は、必ずビジネス上の何らかの課題が購入に至る背景にあります。これを「課題認識」の段階と呼びます。

実務を行う上で何らかの課題を認識した個人は、製品やサービスの購入とは無関係にさまざまな情報を集めます。この情報収集活動は、インターネットはもちろん、取引業者や関連部署、知人からの情報収集、専門サイトや雑誌等、さまざまな情報源を活用しながら行われます。これが「課題解決策情報収集」の段階になります。課題を認識した個人が役職者である場合は、部下に情報収集を任せることも多いですが、いずれにしろこの段階では何らかの製品やサービスの購入はまったく念頭にありません。

そして、個人が情報収集を繰り返すなかで、課題を解決する方法を見つけ、これなら自社の課題を解決できそうだと確信します。これが「課題解決が腑に落ちる」段階です。そして、解決策を得た個人は、課題の解決に取り組みます。もし、このまま課題が解決できてしまえば、企業としての購買に至ることはありませんが、個人では課題が解決できず、何らかの製品やサービスが必要となれば、組織による購買行動のフェイズに移行します。

組織による購買行動の第1段階は「社内問題提起」の段階になります。「この課題を解決するためにはこういうサービスを利用する必要があります」などと社内に問題提起する段階です。

問題提起を行い、組織的な解決が必要だと認識されると、「基本計画立案」段階に移行します。課題解決のためには、具体的にどのような商品・サービススペックが必要なのか、どのくらいの費用がかかるのか、どの程度の費用対効果が見込めるのかなどを調べ、資料としてまとめていく段階です。この際には、多くの企業のウェブサイトを調査して必要なスペックや予算を把握します。

同時に、取引業者や課題形成時に参考になった企業などと面談し、詳しい情報や見積もりをとります。これは相場観を作るためのもので、必ずしも発注につながるわけではありませんが、この段階で接触した企業は後々も声をかけてもらえますので、実際の企業選定の際に有利に商談を進めることが可能になります。

このようにして作られた基本計画が社内承認された後、実際にどの企業に発注するかを決めるための「企業情報収集」段階に入っていきます。この段階でようやく企業名や商品・サービス名、商品・サービスカテゴリ名での検索が行われることになります。そして企業や製品の信頼性やスペック、価格などを考慮して、コンペティションに参加させる企業をいくつか選定していきます。

候補に選出した企業に実際に連絡をとって、提案書の提出を依頼し、社内で比較・検討を行っていく「企業選定」の段階を経て、「企業決定」へと進み、契約を締結するわけです。

具体的に例示すると次のようになります。

例えば、飲食店を運営している企業を例に考えてみましょう。その飲食店の店長が、売上の低迷に悩んでいたとします(課題認識)。

そこでインターネットで「飲食店 売上アップ」「飲食店 販促」などといったキーワードでなにか良い方法はないかと調べます(課題解決策情報収集)。

すると、店舗の外観や看板、POPの作り方、効果的な広告出稿方法、業態別の集客策のコツ、あるいは顧客の購買意欲をあおるキャッチコピーのつけ方などのノウハウを掲載したWebページが見つかります。

どの内容も論理的に、かつ、事例とともに具体的に分かりやすく説明されており、実行すればすぐにでも売上が上がりそうだと感じるわけです(課題解決が腑に落ちる)。

しかし、それらの改善を一つひとつ実行するには手間がかかります。ただでさえ忙しい状況の中、POPの内容や広告の見直しを行っていたのでは、業務がすべて止まってしまいます。そこで、飲食店向けの広告・販促を得意としている制作会社や広告代理店に業務をアウトソーシングすることを思い立ち、上司に相談してみます(社内問題提起)。

上司からは、売上が改善されるのであれば多少の費用がかかっても構わない、との了解が得られたので、もう一段、詳細に情報収集を行うことになります。そこで今度は、業界内にどのような会社があり、どのようなサービスをどの程度の価格で提供しているのかを調べます。この段階では、取引実績のある企業や課題形成段階で参考になった企業と面談をしながら、相場観を形成していきます(基本計画立案)。

社内で予算が承認されたので、実際に依頼する企業を選定する段階に入ります。この段階では、基本計画立案段階で面談した企業だけでなく、より自社に合っていると思われる中小・ベンチャー企業も候補に入れることを検討します(企業情報収集)。

 

3、4社の企業を選定して、提案書の提出を依頼します(企業選定)。  

社内コンペを経て、選出した1社との契約を締結します(企業決定)。  

企業によって、多少の差異はあれ、BtoB企業の購買行動はおおむねこのような流れで行われているはずです。

ちなみに、企業には予算を組むタイミングというものがありますから、タイミングが合えばすぐに予算が承認されますし、合わなければ次の予算編成のタイミングまでペンディングになることがあります。このように外部環境に影響されることはありますが、基本的にはどの企業でも購買行動は以上のようなパターンをたどっています。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:新規顧客をウェブサイトで開拓する方法 著者:中田 義将 (株式会社リーディング・ソリューション)

1978年生まれ。株式会社リーディング・ソリューション代表取締役。
早稲田大学政治経済学部卒業後、大手経営コンサルティング会社入社。グループ会社役員を経て、2004年株式会社イングロス(現・株式会社リーディング・ソリューション)を設立。B toB企業を中心に、上場企業からスタートアップ期のベンチャー企業まで、業種・規模にかかわらず幅広くマーケティングを支援している。上場企業・有名企業を中心に、多数のコンサルティング実績、マーケティング支援実績がある。

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