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ワンマン社長は要注意! 社員の自発性を奪い「やらされ感」を植え付ける指示・命令とは

著者:今井 啓介

人間誰しも、「こうしろ」と命令されるのは嫌なものです。仕事で指示ばかり続くと社員は「やらされ感」を抱き、やる気(モチベーション)を失っていきます。経営者はやる気を失った社員に対して不信感を抱き、さらに強く指示を出すようになります。そして社員の意欲はますます削がれ、辞めていく社員が絶えない……。今回は、ワンマン社長が陥りがちなこの「負のスパイラル」についての話です。

ワンマン社長の指示・命令が社員に「やらされ感」を抱かせる

経営者や組織のリーダーの誰もが部下にやる気を出して働いてほしいと思っています。しかし、社員はワンマン社長の下ではやる気を失いやすいものです。その理由はワンマン社長による「指示・命令」にあります。ワンマン社長は目の前の仕事に対して「あれをやれ、これをやれ」と矢継ぎ早に指示を出します。ワンマン社長はその仕事をより速く、より正確に、より効率的にと考えてのことかもしれません。しかし社員にとってはそうした社長の指示は、かえって迷惑に感じるものです。

社員の「やる気」は内側からわき起こるエネルギーで、外から与えられるものではありません。「指示」では仕事を押しつけられたと感じ、社員はやる気を失います。代わりに社員が抱く感情は「やらされ感」です。社員の「やらされ感」は、以下のような状況で生まれます。

①仕事に権限がなく、自ら考え行動する余地がない ②失敗に対する許容度が小さい ③いちいち口出しされる ④仕事の目的が分からない ⑤ホウレンソウや報告書づくりに膨大な時間が取られる

①仕事に権限がなく、自ら考え行動する余地がない

細かい行動にまで常にワンマン社長や上司の承認を得る必要があると、社員は考えて行動する余地がありません。言われた通りに動くしかなければ積極性は失われ、受身の姿勢を強めていきます。指示・命令の行き過ぎは社員の思考力と行動力を奪います。仕事の権限を与えないのは、社員のやる気を奪い、「やらされ感」を醸成する最も典型的なものです。

②失敗に対する許容度が小さい

未開拓の分野や新しい仕事に取り組むときには失敗のリスクはつきものです。時にはトラブルに発展することもあります。その際、自分がやっていればこんなことにはならなかったと、つい未熟な部下の不始末や失敗を非難してしまうものです。 しかし社員からすれば、仕事の権限は与えられていないにもかかわらず、失敗については厳しく𠮟責される。それどころか責任は担当者である自分がとらなければならないと感じ、やはりやる気を失います。だったら言われたことだけをやっておこうと「やらされ感」を募らせるのです。

③いちいち口出しされる

トップや上司から細かく口を挟まれると社員は嬉しくないものです。自分で対処するより部下のほうが時間がかかり、質についても課題が出るのは仕方がないところです。しかし老婆心などから出るひと言が仇(あだ)となることがよく起こります。親切に教えているつもりがやる気を削ぐ。これも社員の「やらされ感」を醸成する典型的な状況です。

④仕事の目的が分からない

仕事に意欲的に取り組むために社員も仕事の目的を理解したいと考えています。しかしトップダウンによる指示では社員の隅々にまでそうした意識が伝わらず、仕事だけが降りてくるような状況が生まれやすいものです。 すると現場は仕事の目的が分からず「自分が手がけている仕事が誰に、どのような形で役に立つのか」が見えなくなります。結果として社員が取り組む仕事は単なる「作業」になり、やはりやる気につながりません。組織全体の一体感も醸成されず、社員は「やらされ感」だけを募らせていくのです。

⑤ホウレンソウや報告書づくりに膨大な時間が取られる

仕事の基本はホウレンソウ(報告・連絡・相談)です。しかし過度のホウレンソウや報告書づくりは社員のやる気を奪い「やらされ感」を醸成します。トップや上司は任せた仕事の進捗を確認するためにホウレンソウが欠かせません。しかし社員からするとホウレンソウによってさらにあれこれと追加の指示が飛んでくるので、やはりやる気を失います。それどころか、やがて社内報告のために仕事をするようになっていきます。

会社に対する不信感が「やらされ感」をますます増幅させる

社員に「やらされ感」を抱かせる5つの項目すべては、管理者側から見ると当然のことです。しかし部下からすると自分たちの仕事の邪魔にしか見えない。ワンマン社長のやる気がかえって自分たちのやる気を削いでいると感じてしまうのです。経営側から見ている物事と社員側から見ている物事ではここまで違って見えているのです。

若い経営者や起業家はこの点になかなか気づけません。それどころか、やる気を失った社員を見て何て不誠実なんだろうと思うようになり、社員を信頼することができなくなります。一方、信頼されていないと感じた社員も、ますます経営者に不信感を募らせていく負の連鎖が始まります。やがて経営者と社員との間には一生埋まることのない、深い溝が刻まれることになるのです。社員はやる気を失い「やらされ感」だけを募らせていくのはこのような状況からです。

「やらされ感」は創業メンバー以外の社員が抱きやすい

「やらされ感」の魔の手は、創業から程なくして忍び寄ってきます。

会社の創業期は何もかもゼロからのスタートです。最も大変な時期ですが、起業したての頃は創業者と志を共にする数人の創業メンバーが一丸となって事業をもり立てていきます。人数も少なく意思疎通も容易なことが多いので、最初のうちは組織について悩むことはそれほどありません。むしろ志を一つにして、共通の目的に向かっているので勢いがあります。それ故、成長の階段を一気に駆け上がれることもあります。

しかしこの創業期から次なるステージへと飛躍を目指したとき、会社は一つの大きな壁に突き当たります。

人手が足りなくなり、増え続ける仕事に対処できなくなるのです。

そこで新たなメンバーを募るために、採用活動を行うことになります。創業者自ら事業に懸ける思いや将来像を熱く語り、共鳴してくれる人材を迎え入れようとするでしょう。

ところが期待通りにはなかなか事は運びません。苦労してようやく採用した人材も期待したほど会社には尽くしてくれません。にもかかわらず要求だけはしっかりしてくる。挙句の果てには入社して日が浅いうちに、突然退職願を突きつけられることもあります。

創業メンバーは立ち上げ時の苦労を共にしているため、強い絆で結ばれた間柄です。しかし創業時の苦労を知らない新たなメンバーは深い絆で結ばれてはいません。創業メンバーのような阿吽(あ うん)の呼吸で意思疎通できるわけではありません。育ってきた環境も違えば性格も考え方も価値観も異なります。その結果、どうしても新たに迎えた人材との考え方の違いに強い違和感を覚えてしまうのです。

しかし社長にしてみれば、理屈では理解できてもやはり自分で起こした会社は誰よりも愛着があり、自分の分身です。加えて社長としての重い責任を背負っています。

そこで新たな社員たちに自分の考えを浸透させようと、トップダウンの指示・命令が始まるのです。すると、やはり新たに入ってきた社員たちはやる気を失い「やらされ感」を募らせていくことになります。

多くの起業家が創業から程なくして、このような悩みを抱えることになります。

社員が期待通りの働きをしないと、社長は更にワンマン化する

採用しても採用しても社員が辞めてしまう、思った通りに働いてくれない、期待通りの成果があがらない、社員が会社への不満を募らせる……。こうした経験が積み重なりトップを苦しめると、次第に経営者は人間不信に陥っていきます。社員を誰も信頼できなくなっていき、創業時のメンバーにも信頼を寄せられなくなっていくのです。

重要な仕事はますますトップ自らが抱え込み、これまで以上にトップダウンによる指示が多くなります。

そうした組織では社員の働く意欲はますます薄れ、人材の入れ替わりはいよいよ激しくなります。トップと現場のミゾも深まるばかりです。いつの間にかトップに近い立場の人間も皆イエスマンばかりになり、誰も進言してくれないので裸の王様になっていきます。

創業時の団結力は失われ、組織はまとまりを欠いていきます。ワンマン化した社長と創業メンバーとの意見やビジネスの方向性が食い違い、お互い別の道を歩み始めるケースはちょうど成長期に差しかかった頃に起こりやすいものです。

ワンマン化する経営者は、社員が期待通りの働きをしない理由を相手に押しつけて人間不信に陥っています。

採用してもすぐ辞めてしまう、うちの社員は働かない、仕事を任せてもやる気を出さない、しかしその元凶が実は自分にあったとしたら? どんな物分かりのいい経営者にもワンマン化する可能性はあります。一度ワンマン化するとその状況を抜け出すことができずにいる社長がたくさんいます。

社員に権限を持たせれば、会社はうまく回り出す

では、どのようにすればいいのでしょう。社員に任せるのです。

ある日、私は「俺は来年から仕事を一切しない。君たちにすべて任せるからそのつもりでいてほしい」と宣言しました。

なんと大胆な宣言をしたものだと思われるでしょう。社員もまさか社長が仕事をしなくなるとは夢にも思っていませんから社内は大騒ぎです。しかし周囲の動揺をよそに、宣言通りすべての仕事を社員に任せ切りました。

当然ながら任せる側も内心は心配ですが、その心境を見透かされて社員を動揺させてはいけません。本当は、相談に来た時点で適切なアドバイスをするほうが楽なのですが、それでは社員の成長につながりませんから、ぐっと我慢する。そしてどんと構え、笑顔で見守るのです。社員たちに「自分がしなければ誰もやってくれない」と思わせたら勝ちです。

そんな追い詰められた状況のなかで自らを奮い立たせ、意思決定と行動を積み重ねる、その経験が社員を鍛えていきます。

以来、「任せっぱなし経営」で私が社長らしい仕事を一切せずとも、36年以上業績を伸ばし続けてきました。大切なのは、社員に権限を持たせ、決意・即断させることです。

こちらのコンテンツは書籍『業績を伸ばす 任せっぱなし経営』から抜粋しております。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:業績を伸ばす 任せっぱなし経営 著者:今井 啓介

今啓パール株式会社代表取締役社長。
11938年生まれ。愛媛県宇和島出身。1975年、今啓パール株式会社を設立。起業6年目、ワンマンで行ってきた経営の実務を社員へまかせた結果、社員の責任感が増し、育成と損失を埋めるという一挙両得を実現。その後も経営危機や長期入院などに幾度かみまわれながらも会社を成長発展させてきた。2000年には人生観を詩にした文庫『結婚いろは歌』(JDC)。これまで200以上の詩歌を書きためており、ブログ等で人生をラクに生きるコツを発信している。

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