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【連載第2回】人事に問題がある組織は成長できない! 経営者が解決すべき採用・人事制度の問題点

著者:小野 耕司

終身雇用が当たり前だった時代は人材育成のノウハウや仕組みを持っている企業が多くありました。しかし、現代は転職が当たり前の時代となっています。そのため、人事制度を見直し人材育成のノウハウや仕組みをつくり上げ、定着させなければなりません。今回は問題のある人事制度によって被る悪影響、自社の問題点のチェックポイントについてお伝えいたします。

即戦力の人材ばかりを求める会社は教育のノウハウを蓄積できない

「即戦力の人を採用したい」「すぐに結果を出してくれる人材が欲しい」経営者や採用担当者から、しばしばこのような言葉をお聞きします。中途採用だけでなく、時には新卒採用にも即戦力を期待する時代です。そのような人材は、どの企業も喉から手が出るほど欲しいところでしょう。 ですが、少し冷静に考えてみてください。なぜ、企業はこんなにも即戦力ばかりを求めるのでしょうか? それはひとえに、多くの企業が人づくりや人材育成のノウハウを失ってしまったからです。

私が社会人として働きだしたばかりのころは、大なり小なり多くの企業が人材育成のノウハウや仕組みを持っていました。それこそが、当時の日本企業の強みであり、活力の源泉でした。当時は終身雇用で、よほどのことがない限り転職する人もいませんでした。

ところが、その仕組みがここ二十数年の間に、ほぼ失われてしまったのです。これも、やはり人事に問題があります。 例えば、バブル崩壊以降に多くの企業で導入されてきた「成果主義」は、日本企業の人づくりに対する意識をがらっと変えてしまいました。 日本で本格的な成果主義の制度を導入したのは、1993年の富士通が最初だったといわれています。

以降、多くの企業で成果主義の導入が進んでいきました。が、その後、導入した多くの企業で成果主義の弊害が表れています。成果主義によって多くの日本企業から人づくりのノウハウが失われていったのです。主な理由は、短期で結果の出る成果や、具体的で目に見える成果ばかりが評価されるというところにあります。

例えば、上司が部下を育てるのは上司の業務の一つですが、これは短期では結果は出ませんし、具体的に目に見える成果も上げられないでしょう。評価の対象になりづらいので、上司が部下の育成を後回しにするようになったケースが増えたのです。なかには、「部下が自分よりも成果を出したら困る」という理由で、部下に仕事を教えない上司もいました。 そのような風潮が蔓延し、多くの企業から人を育てるノウハウが失われてしまったのです。人づくりは、半年や1年で成果が表れるものではありません。多くの企業でバブル崩壊後にそれを見失ってしまい、時間をかけて人を育てる日本企業の強みがいまだに失われたままなのです。

もちろん一概に成果主義を否定するつもりはありません。個人の裁量が大きく、インセンティブ型の報酬体系がマッチする業種や職種など、運用次第では成果主義がうまくいく企業もあります。むしろ、成果主義のデメリットを克服した、健全な「実力主義」を根づかせていくべきと考えています。とはいえ、成果主義は結果主義につながりやすいので、慎重に導入したほうがいいでしょう。

大事なのは、どんな制度を採用するにしても、人づくりの仕組みを中心に考えることです。単純に過去の人事制度を否定し、新しい制度に変えるだけではうまくいきません。これは、おそらく多くの方が共感することではないでしょうか。

特に中小企業は、大企業との採用競争に勝って即戦力で成果を上げてくれる人材を確保することは、とても難しいのが現実です。人づくりができなければ、「即戦力を求める」→「採用条件に合う人材が採れない」→「人材不足に陥る」→「よりいっそう、即戦力を求める」→「もっと人が採れない」→「さらに人材不足になる」という悪循環に陥っていきます。今こそ、人づくりのノウハウを再構築しなければならないのです。

優秀な社員ですら成果が出せない状況に陥る

今は目まぐるしく世の中が変化し、常識もどんどん変わっているので、人づくりの方法も当然変えなければなりません。従来はOJTで上司が指導し、同時に、配属された部署に必要な専門的なスキルやノウハウについて教えてきました。しかし、今は変化が激しいので、エンジニアや営業などでも、昔の経験則が通用しないのです。技術指導が難しくなり、技術自体が時代遅れになっている場合もあります。

これからの上司に求められるのは、何が問題で、どう問題解決をしなければならないのかを論理的に説明するマネジメントのスキルです。自分の経験則に基づいて指導をするにしても、それをいったん抽象化し、成果を出すための仕事のあり方は何かを具体的に噛み砕いて教えなければならないのです。したがって、上司は昔よりも高度なスキルを求められるようになっています。

また、仕事の作業も細分化され、高度になっています。パソコンでのデータ分析や資料作成、メールでのコミュニケーションなどは、横で見ているだけではノウハウが伝わるものではありません。今の若者は、やり方や意義、目的などをしっかり説明しなければ、納得して指示やノウハウを受け入れようとしてくれないでしょう。

「会社は学校じゃないんだ」と思われるかもしれませんが、今は学校や家庭で社会人に必要なマナーやスキルが身につく時代ではないのです。一から教えていく覚悟が会社側に必要です。なぜ「能力がない」「成果が上げられない」人材ばかりなのか。「働きアリの法則」でいわれるように、どの組織にも2割程度は優秀な人材がいるものです。

ところが最近、「2割の優秀な社員ですら、会社が期待するほどの成果を上げてくれない」という悩みを、多くの中小企業の経営者からうかがうようになりました。これは、採用環境と育成環境の二つの変化に原因があります。まず採用環境の変化ですが、ここ1、2年、特に新卒採用で数年前には考えられなかったような事態が起きています。なんと一部上場の大企業ですら、かつての採用基準に合う優秀な学生をなかなか採用できずに苦労しているというのです。このような事態は複数の要因が絡み合って起きていますが、その要因の一つとしては学生の希望や価値観の多様化が挙げられます。

かつては、優秀な人材は大企業に就職するのが当たり前でした。その後に転職、独立を考えるとしても、まずは大企業に入って数年間のキャリアを積むというのが、多くの学生が希望するキャリアプランでした。 ところが今は、東大を卒業してもベンチャー企業に就職を希望する時代です。いきなり起業を考える学生も増えてきました。やる気と行動力のある優秀な学生ほど、企業に入ることにかつてほどの意義や魅力を感じなくなっているのです。

その結果、多くの企業では採用人数を確保するために基準を下げ、これまでなら採用しなかったレベルの学生にも内定を出すようになっています。 採用する人材の質が低下しているわけですから、上位2割の優秀な人材の質も下がるのは当然です。採用基準を下げたことで、人材全体の質が低下してしまっているのです。だからといって、採用基準を下げないことには学生がまったく集まらないのですから、多くの企業がジレンマを抱えているでしょう。

【チェックシート】12項目で分かる人事の問題点

「人事」と聞くと、多くの人は給料や評価制度を決めたり、教育制度を導入したり、採用や面接をするのが役割だと考えているでしょう。人事担当者でも、自分たちは事務処理部門だと考えている人は大勢います。 しかし、本来の人事の仕事はそうではありません。その企業にとって必要な「人づくり」をするのが人事の本来の仕事なのです。 ここで、皆さんの会社の人事がいい人事か、悪い人事かを判断するチェックシートをご紹介します。皆さん自身、あるいは皆さんの会社に当てはまる項目をチェックしてみてください。

①自社の人事制度には何も問題がないと思う
②採用しても社員がすぐに辞めてしまう
③離職率が5%以上ある
④社員が辞めてもまた雇えばいい
⑤30代になったあたりから成長しない社員が多い
⑥やる気のない社員は、本人の資質に問題があると考えている
⑦給料さえ上げれば、優秀な人材は雇えると考えている
⑧応募はそこそこあっても、採りたい人にはいつも逃げられてしまう
⑨面白そうな研修プログラムがあれば常に社員に受けさせている
⑩評価制度を変えたら社員のやる気がなくなってしまった
⑪自社がどのような人材を求めているのか分かっていない
⑫学歴で人を評価している

実は、チェック数が多ければ多いほど、残念ながらあなたの会社の人事は「悪い人事」だといえます。もちろん、それは人事担当者が悪いという意味ではありません。会社の人事戦略の基盤が整っていないのが原因です。 これらの項目は、人づくりができていない企業に多く見られる症状です。面白そうな研修を社員に受けさせているのなら、会社思いの優秀な人事だと思うかもしれませんが、その研修を導入して成果を上げられているのでしょうか?

成果が出ていないのであれば、どんなにいい研修であっても自社にとってはムダだったと考えるべきです。ムダにコストをかけてしまったのなら、いい人事とはいえないでしょう。

だからといって、「それなら優秀な人事担当者を雇おう」と考えるのは早計です。経営者が人事の本当の役割について理解していないのなら、誰を雇っても結果は同じです。 やはり経営者が人事にコミットし、人づくりをできる人事戦略を構築していかないと、人事部もうまく機能しません。 そして、いい人事戦略を構築し、実行できれば、自然といい社員が育っていきます。私はそういう例をいくつも見てきました。人事の改革は、会社を変える力を持っているのです。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:経営改革は"人事"からはじめなさい 著者:小野 耕司

1991年に東北大学教育学部を卒業後、古河電気工業株式会社に入社。2005年にはデンソー株式会社に入社し、10年の人事実務経験を積む。
2006年からは三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に在籍し、多数の人事コンサルティング案件に従事。現在は株式会社おの事務所代表取締役コンサルタントとして、多くの中堅・中小企業に対して実践的な人事コンサルティングを行っている。
本書では、今まで感覚的に語られていた「人事の真実」を解明し、ほんとうに実効性のある人事改革の手法を解説する。社員がみるみる育つ組織をつくり、企業の経営課題を永続的に解決するための一書とする。

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