ものづくり大国・日本の中小製造業が衰退しているワケ

著者:宇土寿和

2019.08.30

本コラムでは日本の中小製造業が衰退している原因を分析・解説しています。日本の繊維業界を例に挙げ、海外輸入品にシェアを奪われている現状や、大企業と下請け中小企業の関係、中小企業に必要な自社商品のブランディングなどについても紹介しています。

目次

海外輸入品にシェアを奪われている

私は25年以上、ニットを扱う中小製造業の経営者としてやってきました。経営者になる 前までを含めれば、ニットを中心とするアパレル業界でのキャリアは35 年を超えます。 ニット業界、中小製造業で長く働くなかで、「このままでは日本のものづくりは廃れてし まうのではないか」と強い危機感を抱くようになりました。

理由の一つは、巷に大量に溢れる安い海外製品にあります。繊維業界を例に挙げると、 現在は数量ベースで約97%が海外からの輸入品です。国内の繊維・ニット製品は、もはや 風前の灯といってよいでしょう。

これは、決して繊維産業だけの話ではありません。ほかの製造業でも、中国や東南アジア などの海外からの安い輸入品に国内製品が押されているという例は数限りなくあります。 もちろん、かつては状況がまったく異なり、繊維製品は日本の主たる輸出品の一つでし た。例えば、1950年代には「ワンダラーブラウス」と呼ばれる1ドル程度の綿ブラ ウスがアメリカに大量に輸出されて日米間の貿易摩擦問題を引き起こし、日本は綿製品の 対米輸出の自主規制を迫られたほどです。また、他の製造業においても、安くて品質のよ い日本製品は国内で売れるだけでなく、海外でも大人気でした。

しかし、国内繊維産業の製品出荷額は、バブル崩壊直後の1991年に付けた12.85兆円がピークで、それ以降は減り続けて現在はピーク時の3分の1まで落ち込んでしまって います。繊維製品の場合、出荷額が減っていくのと対照的に輸入品が増えていきました。

大手企業の価格競争のツケを下請け企業が払わされる

海外との競争になんとか勝とうと、さらなるコストカットに走る企業もあります。しか し、人件費の高い今の日本では、そのやり方で勝ち抜いていけるとはとても思えません。 大手企業が下請けの工場にコストカットを迫り、下請け工場がもっと厳しい立場になって しまうなど、さらに悪い流れにつながる可能性もあります。

「低価格」や「大量生産」というスタイルで、果たして日本のものづくりは生き残ること ができるのでしょうか。 再び繊維産業の話をすると、18世紀後半に起こった産業革命での技術革新により、一度 に大量の繊維製品を作ることが可能になりました。以降、繊維産業はヨーロッパ各国から、 アメリカ、日本、そして台湾・韓国、中国、ベトナム……と場所を移しながら、各地の経 済発展に貢献してきました。

この繊維産業のビジネスモデルには、「発展途上国型」と「先進国型」の2つがありま す。端的に特徴を説明すると、

・途上国型…大量生産、低価格、大量販売 ・先進国型…少量生産、高付加価値、少量販売といえます。

「途上国型」とは、文字どおり経済発展の途上にある国がとる方法で、第二次大戦後から高 度経済成長期頃までの日本もそうでした。大量に作って、それを安い価格で大量に売る。 国がまだ貧しい時代には、とにかく安価で買える衣類が求められるからです。

この状況は、他の製造業でも同じではないかと思います。時期の差はあっても、高度経 済成長期からバブル期までは、大量生産・大量販売のビジネスモデルが成功していたので はないでしょうか。

しかし、経済成長に伴って人件費が高騰していけば、より人件費の安い国に比べて低価 格で売ることは難しくなります。また、国が豊かになれば、人々のニーズも多様化して、 安ければ売れるというわけではなくなります。

ただ、私自身いろいろ試行錯誤をするなかで、日本のものづくりが生き残っていくための 方法は必ずあるとも考えるようになりました。 低価格で勝負しなくても、日本のものづくりには高い技術力を背景にした優れた品質という強みがあるからです。「途上国型」のビジネスモデルから、付加価値の高い商品を少 量生産して、それを適正な価格で販売していくという「先進国型」のビジネスモデルに切 り替えていけば、道は開けるのではないでしょうか。

現状を見る限りでは、今も「途上国型」から「先進国型」への切り替えができていない 製造業は多いと感じています。せっかく高品質のものづくりをしていても、「途上国型」 を続けていては海外との価格競争でますますジリ貧になっていくばかりです。

自社の強みを積み重ねながらものづくりを行うべき

中小企業の経営者は、「これまでのやり方ではだめなのではないか」とすでに気づいている人は少なくないと思います。ただ、具体的にどう考えていけばいいのかを、悩んでいる人が多いのかもしれません。

私が属するアパレル業界での考え方を説明していきましょう。まず、これまでどのよう な衣料品が求められてきたか、簡単に歴史を振り返ってみたいと思います。 「衣・食・住」の一つである衣料品は、人の暮らしに欠かせない必需品です。人々が貧し く、まだ必要十分な量の衣料品が行き渡っていない状況では、大量生産した手頃な価格の 商品が大量に買われます。この段階では「途上国型」ビジネスモデルが成功していました。

しかし、徐々に暮らしが豊かになってくると、暑さ寒さをしのぐためだけの「衣料品」 では人々は満足できなくなり、着て楽しむための衣類、つまり「ファッション」という位置づけです。

日本では1970年頃からファッションへの注目度が高まってきました。私がアパレル業界に入った1980年代は、ファッションに対する憧れが最も強かった時代と言っていいでしょう。70年代半ば以降、ジョルジオ・アルマーニやジャンフランコ・フェレといった世界的なブランドが誕生して、日本にも次々に入ってきました。パリ・コレクションもいちばん盛り上がっている時期で、テレビや雑誌などで盛んに取り上げられたものです。この時期、ヨーロッパの高級ブランドは、人々の「憧れ」をブランディングに上手に利用することで高価な商品の売り上げを伸ばしました。日本のアパレル業界も好調でした。

ただ、ひととおりのファッションを経験すると、「ファッションへの憧れ」は小さくなっ ていき、人々の関心はほかへと移っていきます。 さらに、1990年にバブル経済が崩壊して以降は長い景気低迷が続き、その後のデフ レ経済の下、今は日本ではユニクロ、海外ではH&Mやフォーエバー21といったファスト ファッションが若者を中心に一定の人気を集めています。

とはいえ、すべての人がファッションに興味を失ったわけでも、トレンドさえ追えれば安価な服でいいと考えているわけでもありません。ファッションが好きで、知識もこだわりもあるという人は、今もたくさんいます。

しかも、「興味のあるものにはお金をかけるが、そうでないものは安い量産品でいい」といった消費行動の二極化が進む中、こうした人たちは心から満足できる商品であれば、ほかの消費をセーブしてでもファッションにお金をかけてくれます(「消費行動の二極化」はアパレル業界だけの話ではありませんから、どんな業界であっても参考にしていただける話だと思います)。

ただし、知識もこだわりもある人たちですから、「そこそこいい」というレベルのものでは満足感を提供することはできません。また、かつてのブランド品のように「憧れ」だけでブランディングを行うという方法も、今では通用しないでしょう。

では、どうすればよいのでしょうか。答えは、自社が得意としているもの、自社の強みを最大限に発揮して、それを積み重ねながらものづくりを行うことで、グレードの高い商品を提供することにほかなりません。

私の会社の例でお話しすると、2000年に社名変更した今の自社ブランドは「カシミヤ製品に特化」していて、それも「世界トップクラスのカシミヤ糸を使用」し、「あなただけのために作るセミオーダーシステム」で、海外の一流ブランドにも引けを取らない「高い技術による丁寧なものづくり」で作り上げた極めて高品質の商品を提供しています。

一つひとつが自社の強みだと誇りを持っていますが、一つだけでなく得意分野を積み重ねることで、自社のオリジナリティのあるブランドといえるのだと思っています。 また、2011年以降に岩手県北上市に工場を移転してからは、ニット作りを続ける中で北上市や東北を応援したい、お役に立ちたいという思いがよりいっそう強くなりました。

カシミヤの最高級の糸を使ってセミオーダーで1枚ずつ作っていくというやり方のため、扱っている商品は決して安くはありません。しかし、消費者が納得して心から満足できる、価値に見合った価格であれば、消費者に財布を開いてもらうことは十分に可能です。結果として、私の会社では、付加価値の高い商品を少量生産し、高価値に見合った価格で販売する、まさに「先進国型」のビジネスモデルを実現しています。 一つ注意したいのが、原材料やものづくりにこだわって、作り手の思いを込めた商品を作ったとしても、「下請け」という立場でいる限り、出来上がったものを「高く売る」ことには限度があるということです。 もちろん、元請けからの要望で高品質な商品を作れば、卸値もある程度は考慮されるかもしれませんし、元請けから評価されるという意味では「自社ブランド」(実際には自社のブランドではありませんが)の確立にもつながるでしょう。 しかし、卸値と最終価格の関係を考えれば、下請けから脱却して自社で高く売る方法を考えて、本当の意味での自社ブランドの確立を目指すことがやはり重要でしょう。

「良いものを作れば売れる」という幻想を捨てきれない

「品質の良いもの」を作るのは、非常に難しいことです。しかし、日本の製造業の多くは、ものづくりで本来いちばん難しいはずの「質」の部分については、すでにクリアできています。技術力があり、それを生かす丁寧なものづくりを続けてきた日本の製造業だからこそといえます。 ただし、単に「良いものを作っていれば必ず売れる」という発想では、これから生き残っていくことは簡単ではないでしょう。なぜなら、どの日本製品も品質が良いとすれば、それだけでは他との差別化ができないからです。差別化ができないと、良い品質のものであっても価格競争に陥りやすくなってしまいます。 そこそこ品質が良いだけでは、もはや「付加価値」とは呼べないということです。 機能性についても同じです。単に「使いやすい」や「便利な機能がある」程度なら、それは付加価値とはいえません。しかし、ほかとは異なる突出した機能性があるのならば、それは付加価値と呼べるでしょうし、そうなれば価値に見合った価格を堂々とつけることができます。 また逆に、あえて機能性を追求せずに、代わりに別の「何か」――例えばデザイン性 などにこだわり抜けば、それはそれで製品の付加価値になるかもしれません。 では、UTOのカシミヤニットの場合は、何が付加価値といえるでしょうか。 まず、カシミヤに特化していることが挙げられます。ニットのアパレルメーカーで「カ シミヤも扱っています」なら当たり前かもしれませんが、「カシミヤ専門」を謳うことで 付加価値化が図れていると考えています。 そして、おそらく世界でほかにはないと思われる、セミオーダーで1枚ずつ作ること。U TOブランドの最高の付加価値だと自信を持っています。 ただ「品質が良い」だけでは今の日本では付加価値とはなかなか呼べません。 ですから、北上工場のものづくりは「世界一」と誇れるもの、単体でも付加価値と認められるレベルのものと考えてはいますが、「カシミヤに特化」+「世界最高クラスの原料」+「セミオーダー」+「丁寧なものづくり」のすべてで、UTOの付加価値を形成していると考えるほうが良いのかもしれません。 さらに、製品そのものの付加価値だけでなく、消費者の製品への「愛着」や、地域との 「結びつき」も見逃せない「付加価値」だと考えます。 購入してくれた人は、製品に愛着を感じていればリピーターになってくれます。そして その人からの口コミが期待できます。ひいては、「あのブランドは、消費者に愛されてい る」というイメージを確立できます。そうしたブランドイメージが確立できた製品は、一 過性のブームではなく長期にわたって売れ続けることが可能になります。 愛着を持ってもらうには、まず何より購入した製品のクオリティが良く、ずっと使い続けたいという思いを持ってもらうことが重要です。ただ、そのほかにも愛着や親しみを持ってもらえる方法はいろいろあるのではないかと考えます。 例えば、UTOでは、先頃ごろWebサイト上で「UTOカシミヤ倶楽部」という無料のメールマガジン会員サービスを立ち上げました。まだスタートしたばかりですが、会員になってくれた人には特別限定商品を会員特別価格で提供したり、またメルマガなどを通じて交流したりといった活動を考えています。 もちろん、UTOの場合は、「カシミヤニットなら岩手県北上」「岩手県北上といえばUTOのカシミヤ」というイメージの確立を目指しています。 いずれにせよ、何よりも大切なのは、高品質で付加価値の高い製品をしっかりとPRしつつ、最終消費者に直接売っていくことです。肝心の製品に魅力がなければ、生き残っていくことはできないでしょう。 自社の製品にはどんな付加価値があるのか、その付加価値は説明できるのかを、改めて考え、「良いものを作れば売れる」という従来の考え方から脱却していくことが重要だと思います。 こちらのコンテンツは書籍『中小製造業 逆転のブランディング』から抜粋しております。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:中小製造業 逆転のブランディング 著者:宇土寿和

「ふるさと納税」返礼品としての人気をきっかけにニット製品が大ヒット!短期間で売上1.5倍を実現したカシミヤニットメーカーの経営者が明かす消費者の購買意欲をかき立てる製品ブランディングの秘訣

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