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【連載第1回】経営難に陥る原因のほとんどは「人事」に潜んでいる

著者:小野 耕司

「会社を存続させる」「資金を調達する」「事業を発展させる」それらは経営者の重要な役割の一つです。しかし本当に会社を発展させたいなら経営者は「人事」にも積極的に関わるべきです。企業の成長において「人事」は重要な役割を果たします。

社員の採用・能力向上は「人事」の仕事だと決めつけてはならない

経営者の役割とは何ですか? こう聞かれたとき、皆さんはどう答えるでしょうか。会社を存続させること。資金を調達すること。事業を発展させること。社員のために仕事を取ってくること――。 もちろん、これらも経営者の役割です。しかし、今こそ最優先すべきは「人事」です。事業に必要なのは「ヒト・モノ・カネ」だとよくいわれますが、この順番も大事で、やはり一番に来るのは「人」なのです。多くの経営者は、社内の人材を活かすことが大事だという点は理解しているでしょう。 ところが、「それを考えるのは人事の役割だ」と丸投げしている経営者は少なくありません。

経営者は誰よりも自社の人材と人材を育てる仕組みにコミットすべきです。人材をどのように育てて、どのように活用していくのかは経営者がすべてを考えて、実行すべきことなのです。経営者がその軸を持っていないと、人事部もどのような人事制度や人材育成の仕組みを整えればいいのかがわかりません。

人事制度や人材を育てる仕組みは、人事戦略に基づいて決めるべきです。人事戦略とは、その企業で育ってほしい人材、その企業の課題を解決してくれる人材を育てるための戦略です。まず人事戦略を考えてから、それに沿って人事の制度や人材を育てる仕組みなどを設計していくという手順が望ましいのです。

以前、とある大手メーカーの系列会社の人事改革を担当したことがあります。その会社は、社員数は1,000人を超えるので、大企業の規模なのですが、驚いたことに、社長は人事改革の打ち合わせのすべてに出席されたのです。私の経験では、社員数が100人を超える企業では、社長は人事関係の打ち合わせのすべてに参加することはありません。もちろん、中小企業の社長は皆さん日々奔走されているので、時間が取りにくいという事情は私もよくわかっています。ところが、その社長は多いときに週に1回の打ち合わせにも必ず参加されていたので、「本気で人を育てる仕組みをつくりたいと考えていらっしゃるのだな」と感じました。

社長は、「とにかく、私がすべてをジャッジするから」と明言し、人事戦略から人事制度、教育体系を設計するところまで、すべてご自分で判断されていらっしゃいました。

「うちのマネージャークラスは、こういうところが弱いから、これを強化するような教育制度を導入してほしい」 「うちの会社の課題を解決できるような、自分の頭で考えられる社員を育てたい」 そのように、すべて自分の言葉で私にも人事部の方々にも説明されていたので、どのような人づくりをすればいいのかを共有することができたのです。 そして、1年以上かけて人事改革の方向性を固めて実行し、その後5年以上経ちますが、今では社長が望む人材が育ち、業務にも大変良い影響を与えています。

私は、こういう会社は社長のDNAが引き継がれる限り永久に生き残るだろうと確信しています。経営者が人を育てる仕組みに強烈にコミットする会社こそ、どんな時代でも生き残っていける強い企業なのです。

「尖った会社」は優秀な人材を獲得し、「普通の会社」は人材難に陥る

2019年の大卒就職率は97.6%。2018年に比べ0.4%下回ったものの、調査開始した1997年以来2番目の高水準になります。これは文部科学省と厚生労働省の調査によるデータです。就職氷河期はいつの間にか終わっていたのです。

こういうニュースに触れると、日本経済も復活してきた、企業の業績も上向いてきたのだと明るい兆しを感じるかもしれません。しかし、私は決して楽観視はできないと考えています。この先、日本で起きることを考えると、むしろ危機感すら抱いています。

日本は少子高齢化に加えて、人口も減っているのは周知の事実です。 2011年から人口減少時代に突入していますが(総務省統計局による)、長期的なトレンドで人口が減少することは日本では初めての経験でもあります。 2015年に1億2660万人の総人口であったのが、10年後の2025年には1億2066人まで減ると予測されています。実に594万人もの人口が減ってしまうのです。

深刻なのは、「生産年齢人口(生産活動に従事しうる15~64歳の人口)」が減っていくことです。2015年の時点で7682万人いた生産年齢人口が2025年には7084万人、つまり598万人も減るという試算があるのです。年間で60万人ぐらい減っていくのだと考えると、新卒で採用したところで早晩働き手が足りなくなるのは明らかです。

働き手が減れば当然、企業では少ないパイを巡っての奪い合いが始まります。大企業はもともと社員数が多いので、それほどダメージは受けにくいかもしれません。そもそも世の中が不安定になればなるほど、安定した就職先を求めて大企業の社員や公務員を選ぶ人は増えていくでしょう。そのうえ、大企業はグローバル化が進んでいるので、日本国内だけでは働き手が足りないなら、海外で人を雇うなどの対応が可能です。

中小企業は海外展開をすることになってもいきなり人材を増やすのは難しいですし、大企業並みの給料や福利厚生で人材を獲得するのは難しいでしょう。また、人材難の時代に優秀な人材が選ぶのは、何かしらの尖った強みや魅力を持っている会社です。大手の人気企業はもちろん独自の強みを持っていますが、最近ではベンチャー企業でも、経営者のカリスマ性や独自の事業活動によって就職人気が高まっているところも多くあります。今後、優秀な人材はますますそういった「尖った」企業を選ぶ傾向が強まっていくのは間違いないので、いわゆる「普通の会社」ほど人材に恵まれないという状況になることが予想できます。

「求人難」型の倒産は1.7倍!熾烈な人材争奪戦はすでに始まっている

中小企業は従来から慢性的な人材不足で悩んでいますが、今後、大企業でさえ、人材不足で悩む可能性があるのです。 私は、これからの企業倒産は業績悪化ではなく、人材が足りない「人材難」で倒産に追い込まれるケースが激増するかもしれないと考えています。実際に、人材不足関連の倒産は増えつつあります。 東京商工リサーチの2018年の調査によると、募集しても人が集まらず、倒産に追い込まれた「求人難」型の中小企業の倒産は59件です。件数で考えるとわずかだと思うかもしれませんが、前年度より1.7倍も増加したのです。

たとえば、建設業界は東日本大震災以降、人材不足で人件費が高騰しています。読売新聞の記事によると、長野県のある建設会社は、職人を探してあちこちに声をかけたけれどもまったく集まらなかったので、会社の清算に追い込まれたといいます。人件費や資材費の高騰で経営が厳しくなっていた状態で、さらに職人不足で建設工事が完成まで1カ月も遅れ、資金が底をついたのだそうです(2014年8月23日読売新聞)。仕事がなくて倒産に追い込まれるのならまだわかりますが、仕事があっても人を雇えなくて倒産してしまうのです。

建設業界のなかには、給料を上げても新卒も中途も一人も入らない企業も出てきています。すでに人材を確保するための熾烈な戦いは始まっています。 ほかの業界も、景気が回復しているからと安心している状況ではありません。将来的には国レベルで人材が足りなくなるのです。 危機感を抱く中小企業のなかには、合同説明会に参加したり、高卒、専門卒の新規学卒者の求人を積極的に行うなどの対策をとっている企業もあります。外国人の採用を真剣に考え始めている企業もあるでしょう。

とある地方の優良企業では、1年前から新卒採用の基準を落としているといいます。今までは採用してこなかったレベルの学生も採用するようになったというのです。 それは、そこまでしないと人が集まらなくなったのが理由だそうです。地方は不景気がずっと続いているとはいえ、その企業は地元では知名度が高く、給料もよくて安定しているので人気が高かったのです。

今までは優秀な人材も集まっていたのですが、昨年あたりから急に応募してくる学生のレベルが落ちたといいます。それでも雇わないと、その企業の将来を支える人材が足りないのだという話を聞きました。もはや、選り好みをしていられる状況ではありません。一人でも多くの社員を確保しておかないと、企業の未来はないかもしれないのです。

こちらのコンテンツはこの書籍から抜粋しております。

書籍名:経営改革は"人事"からはじめなさい 著者:小野 耕司

1991年に東北大学教育学部を卒業後、古河電気工業株式会社に入社。2005年にはデンソー株式会社に入社し、10年の人事実務経験を積む。
2006年からは三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に在籍し、多数の人事コンサルティング案件に従事。現在は株式会社おの事務所代表取締役コンサルタントとして、多くの中堅・中小企業に対して実践的な人事コンサルティングを行っている。
本書では、今まで感覚的に語られていた「人事の真実」を解明し、ほんとうに実効性のある人事改革の手法を解説する。社員がみるみる育つ組織をつくり、企業の経営課題を永続的に解決するための一書とする。

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