“医療の狭間”に閉じ込められてしまう小児期発症慢性疾患患者たち――
成人後も適切な医療を受け続けられる社会へ
てんかん、知的障害、脳性麻痺、医療的ケア児……
小児期と成人期の医師たちがチームで患者を支える
「病診連携」のあり方とは
小児期発症の神経疾患や重度神経疾患をもつ患者は、
1990年代までは多くの場合有効な治療法がなかったために成人に達するまで
生存できませんでした。しかし医療技術の目覚ましい発展により、
現在では思春期さらには成人期以降まで長く生きられるようになりました。
その一方で小児期発症疾患の継続診療が必要となる場合、
成人期医療への移行がふさわしい時期になっても医療体制が整っていないために
円滑な移行ができず、患者が行き場をなくした状態に陥ってしまうケースが
急増しています。
特にてんかんなどの小児神経・脳神経分野の患者の多くは生涯にわたっての服薬や
生活支援が必要になりますが、成人診療科の医師は小児期発症の神経疾患は
専門外で診療に消極的なケースが多く、成人診療科に移行したくても、
受け皿がほとんどないというのが実情です。
一方で小児科医が小児期発症の神経疾患や重度神経疾患をもつ患者を
成人後も診ていけるかというと、就職、結婚、妊娠・出産といった
ライフステージに応じた支援や、生活習慣病などの成人期発症の疾患についての
知識が乏しく、必要な医療・支援に結びつかない事例があとを絶ちません。
小児科でも成人診療科でも診てもらえず、医療の狭間に取り残されて
不利益を被っているのが移行期の患者たちです。
年齢・生活に見合った適切な医療を受けられないために、
就職や妊娠・出産等が制限されることもあれば、外出中などに万一てんかん発作が起きれば、
命が危険にさらされる可能性もあります。
移行支援の不備は単に医療の課題というだけでなく、
患者の人生や命に関わる重大な問題でもあるというのが著者の主張です。
著者は、東京都で小児神経・脳神経内科クリニックを開業している医師です。
小児科医のなかでも小児神経学とてんかん学を専門としており、
小児期発症の神経疾患や障害を抱える多くの患者の診療をしてきました。
そこで大人になってからも通い続けられる医療機関がないことに
不安を覚える患者やその家族が多いことに問題意識をもち、
移行期医療の充実を模索し続けてきました。
移行期医療のひとつのあり方として、著者は小児神経疾患を専門とする
クリニックと病院の神経科や他の成人診療科が連携して診療をする
「病診連携」を提唱しています。
小児神経クリニックの医師が病院の移行期の患者を引き受け、
小児期発症の神経疾患についての診療・生活指導を行うとともに、
検査・入院など必要に応じて病院の神経科等と連携することで、
スムーズな移行が可能になります。
また成人になって発症する生活習慣病やがんなどの疾患も、
やはり病院や他施設の成人診療科と連携して対応することで、
クリニック・病院の医師がそれぞれ自分の専門を活かしつつ、
安心して診療にあたることができます。
従来のように一人の主治医が患者を診るのではなく、
小児神経科と関係する成人診療科の医師がチームで患者を支えていく
システムを築くという考え方です。これにより、
小児期から成人期にかけての切れ目のない患者支援につながっていくのです。
本書では小児期から成人期への移行期医療の実情を伝えつつ、
どうすれば患者を移行期医療の狭間から救い出すことができるのか、
そのために必要な支援体制をどのように築いていけばいいか、
医師側だけでなく患者・家族側が取り組める対策について解説します。
さらなる移行期医療の充実を求める医療者、医療関係者にとって、
議論を深め改善へ乗り出すきっかけとなる一冊です。