Q. 書籍出版に至る経緯を教えてください。
「日本人にはどうして歯並びの悪い人が多いの？」
私が米国で歯列矯正の技術を研究していた時代に、あるアメリカ人から言われてショックだった言葉です。
この言葉には、日米の「歯並び」に関する意識の違いがよく表れています。米国では、悪い歯並びを矯正するのはごくごく当たり前の行為。逆に、歯並びが悪いまま放置している人は周囲から「所得が低い」「家庭環境が悪い」といったネガティブなイメージを持たれてしまいます。
ところが日本人には、自分の歯並びにコンプレックスを持っていながら歯列矯正に及び腰になる人が少なくありません。「時間がない」「失敗が怖い」などと理由をつけて諦めてしまうのです。矯正というと子どものもの、という固定観念も流布しています。
経済先進国でありながら「矯正後進国」である日本――しかし私が米国で「３Ｄデジタル矯正」に出合ったとき、この状況を劇的に変えられることを確信しました。望めば短期間で治療を終えることができ、安全で、何よりも圧倒的に高い精度――しっかりとした基礎技術を持った矯正歯科医が、３Ｄデジタルの技術を使えば、その治療のクオリティは数段、跳ね上がります。
現状の日本では「矯正歯科専門」を掲げる歯科医すらまだ少数で、大半は街の歯科医が虫歯治療のかたわら矯正を行っているのが現状です。
日本も３Ｄデジタルの技術を本格的に導入してアメリカ並みの歯科矯正先進国になれば、多くの患者に「理想の笑顔」をもたらすことができる――そう感じた私は、３Ｄデジタル矯正を世に広めるための書籍出版を決意しました
Q. 「3Dデジタル矯正」とはどういうものなのか教えてください。
「歯」というと口を開けて表面に見えている部分だけを気にしがちですが、歯科矯正の成否を左右するのは歯肉に隠れた歯の根っこ（歯根）のコントロールです。従来の歯列矯正では、矯正によって歯根がどのように動くかは歯科医の予想に頼っており、動いた歯根同士がぶつかってしまうなどのミスが絶えませんでした。しかし、３Ｄデジタル矯正には、矯正による歯の動きが歯根まで含めて一目でわかる驚きのシステムがあります。それが「３Ｄシミュレーション」です。
患者さんにはデジタル矯正の申し込み後、まずは歯科用ＣＴやレントゲン撮影などの精密検査を受けてもらいます。検査によって集まったデータをシステムに落とし込むことで、「ヴァーチャルペイシェント」と呼ばれる三次元モデルが作成できます。これによって、歯の目に見える部分だけでなく歯根までも含め、矯正によって歯がどのように動いていくかの鮮明なシミュレーションが可能になるのです。そうして、治療開始前に歯科医と患者さんが、矯正後の歯並びを明確に共有してから治療を始めることが可能になります。また、シミュレーションによって施術の安全度も飛躍的に高まるのです。
さらに、理想の歯並びへ向かうために歯をどう動かすかの最短ルートがわかるため、矯正に要する期間を最短で６カ月にまで短縮できます。
３Ｄシミュレーションの技術と様々な最先端の矯正器具の併用によって、まったく新しい歯列矯正が実現できるのです。
Q. 読者へのメッセージをお願いします。
歯並びは健康や美容に大きな影響を与えるため、できるなら矯正を受けたほうがよいことは間違いありません。もっと気軽に安心して誰もが治療を受けられるようにならないか。私が矯正歯科専門のクリニックを開業しているのは、そのような思いからです。
実は私自身も、かつては歯並びにコンプレックスを抱えていました。歯列矯正をしたのは歯学部に入ってからです。その後、歯科医となり、かつての自分と同じように歯並びで悩む人たちを救いたいという気持ちで渡米し、歯列矯正の技術を研究し続けてきました。そうして出合ったのが「３Ｄデジタル矯正システム」でした。
歯列矯正は想像以上に自分に良い影響を与えます。私自身、矯正前は人前で笑うことさえ嫌で仕方がなかったのですが、歯並びをなおしたことで「人生」が変わったといっても大げさではありません。自信を持って笑えるようになったことで、周囲の反応も自分の性格もポジティブに変わっていったのです。
大人になってしまうと、皆さん歯列矯正を諦めてしまいがちです。しかし、金銭的な余裕が生じ、若い頃に比べれば自分のことも世の中のこともわかるようになってきたこの時期こそ、歯科矯正の「旬」なのです。「もう遅い」と諦めることはありません。歯並びに悩む人たちが一人でも多く、「３Ｄデジタル矯正」によって美しい笑顔を手に入れることができれば、矯正歯科医としてこれほどの喜びはありません。
