からっぽたいくつどようびはまだ

子どもが家族に贈る「ありがとう」短編集

「いつもありがとう」作文コンクール書籍制作委員会 編

あさのあつこ先生も絶賛

子どもたちの想いの詰まった作文をもとに描かれる、 温かくて、切なくて、ちょっぴり泣ける家族の絆。家族と会いたい、話したい。 きっとそんな気持ちになれる10篇の物語。

朝日学生新聞社主催、シナネングループ共催、文部科学省、朝日新聞社後援により、2007年から毎年開催している「いつもありがとう」作文コンクール。

「普段言葉ではなかなか言えない家族への感謝の気持ちを作文に書こう」という呼びかけのもと、全国の小学生から3万通を超える作文が届きます。

本書はコンクールの10回目を記念して、これまでの入賞作品の中から10作品を選び、作文にまつわるご家族のエピソードを小説にしたものです。制作においては、作文を書かれたお子さんとご家族に、当時の様子や作文に込めた想い、家族との関わり、そして作文を書いたその後についてインタビューを重ね、そのお話をもとに10篇の物語が誕生しました。

このページでは、書籍に収録されていない最新の入賞作品を一部ご紹介いたします!

ご購入はコチラ
アマゾンサイトへ

価格¥1300(税抜)

てんしのいもうと1 てんしのいもうと2
第10回最優秀賞

てんしのいもうと

松橋 一太

ぼくには、てんしのいもうとがいます。

よなか、ぼくは、おとうさんとびょういんのまちあいしつにすわっていました。 となりにいるおとうさんは、すこしこわいかおをしています。いつも人でいっぱいのびょういんは、よなかになるとこんなにしずかなんだなあとおもいました。

すこしたってから、めのまえのドアがあいて、くるまいすにのったおかあさんとかんごしさんがでてきました。

ぼくがくるまいすをおすと、おかあさんはかなしそうに、はをくいしばったかおをして、ぼくのてをぎゅっとにぎりました。

いえにつくころ、おそらはすこしあかるくなっていました。

ぼくは一人っこなので、いもうとがうまれてくることがとてもたのしみでした。おかあさんのおなかにいもうとがきたときいてから、まいにち、ぬいぐるみでおむつがえのれんしゅうをしたり、いもうとのなまえをかんがえたりしてすごしました。

ごはんをたべたり、おしゃべりしたりわらったり、こうえんであそんだり、テレビをみたり、 いままで三人でしていたことを、これからは四人でするんだなあとおもっていました。

でも、はるやすみのおわり、トイレでぐったりしながらないているおかあさんをみて、 これからも三人なのかもしれないとおもいました。さみしくて、かなしかったけど、 それをいったらおとうさんとおかあさんがこまるとおもっていえませんでした。

ぽかぽかのあたたかいひ、ぼくたちは、ぜんこうじさんへいきました。 いもうととバイバイするためです。はじめて四人でおでかけをしました。

ぼくは、いもうとがてんごくであそべるように、おりがみでおもちゃをつくりました。 「 また、おかあさんのおなかにきてね。こんどはうまれてきて、いっしょにいろんなことしようね。」 と、てがみをかきました。

ぼくは、てをあわせながら、ぼくのあたりまえのまいにちは、ありがとうのまいにちなんだとおもいました。

おとうさんとおかあさんがいることも、わらうことも、たべることやはなすことも、ぜんぶありがとうなんだとおもいました。

それをおしえてくれたのは、いもうとです。

ぼくのいもうと、ありがとう。

おとうさん、おかあさん、ありがとう。

いきていること、ありがとう。

ぼくには、てんしのいもうとがいます。

だいじなだいじないもうとがいます。

ひまわりの絵はがき1 ひまわりの絵はがき2
第10回優秀賞

ひまわりの絵はがき

佐藤 陽真里

「 おはよう!」
今日も事故やけがをせず、元気に登校することができた。それは、曾祖母の三枚の絵はがきのおかげだと思う。

夏休みになると、毎年母の実家がある田舎で大半を過ごす。 実家に到着する手前で、まず一番最初に曾祖母に会いに行く。「 ただいま、ばあちゃん。帰ってきたよ。」私が生まれたばかりのころ、 曾祖母は母と一緒にミルクをつくってくれ、よく歌を歌ってあやしてくれてい 小さい時からずっと大好きな人だ。

ある日、曾祖母が母の実家まで歩いて来た。 曾祖母は、少し息切れしながら私に二枚の絵はがきを手渡してくれた。 そのはがきには、曾祖母が描いた花びんに入ったお花の絵が描いてあった。 私は、その絵がすぐに気に入った。そして、もう一枚「 何か絵をかいて 」と、曾祖母に紙を渡した。 色えん筆をにぎると、「 陽真里だからひまわり。」と言ってかわいらしいひまわりの絵を描いてくれた。 母の実家と曾祖母の家の間には長い坂があり、 息切れして来ていたことを思い出し、「 ばあちゃん、送るよ。」と言って、右うでは私が、左うでは弟が転ばないように両うでを支えて、 気をつけながら、ゆっくりと二人で横に並んで送っていった。 曾祖母は 、「 私はなんて幸せなんだろう。こんなに優しいひ孫がいて。ありがとうね。」 と言って、ニコッと笑ってくれた。そのありがとうねの言葉はとてもあたたかくて、 ありがとうという言葉がこんなにも心にしみたのは初めてだった。

この時からその絵はがきは、私のランドセルのポケットにお守りとしてしまってある。 そのお守りの効果はとても良くて、毎日元気に登校して友達に会うことができる。 ランドセルを開けるたびに「 ありがとうね。」と心でつぶやく。

そして今年もまた、夏休みがやってきた。楽しみにしていた田舎へ行ける。
「 ただいま、ばあちゃん。帰ってきたよ。」
いつもの夏休みとはちがう。今年はニコッとしている曾祖母の写真に向かい話しかける。
「 あらまぁ、よく来たね。つかれたでしょ。」
と話しかけてきそうだ。
「 ばあちゃん、いつもありがとうね。」
そう言ってお仏だんの前で手を合わせる。家の中には、線香の香りがした。

※こちらに掲載しております入賞作品は、書籍内には収録されておりません。